コロナ禍の取材自粛のため、復元に関わった道具を紹介している。今回は芸能から少しはずれて鷹匠(たかじょう)の紐(ひも)。
そもそもは、能で使う羽団扇(はうちわ)という道具を復元するために動いていた。「大きな鷹の羽根を合法的に手に入れたい」と触れ回っていたら、友人が機転を利かせて鷹匠に会いに行ってくれた。ところが「鷹を据(す)える特殊な紐が作れなくて困っている」という相談を受けて戻ってきた。「能や歌舞伎の紐を作る職人さんなら作れるのでは」と友人。あべこべになってきたが、乗りかかった船だ。すぐに組紐(くみひも)職人さんに相談して、みんなで集まる段取りを組んだ。
二〇一三年三月。不思議な巡り合わせで諏訪流鷹匠家元の大塚紀子さんにお会いした。大学時代に鷹匠の技に出合い、その伝承に人生を捧(ささ)げている人だ。大塚さんが欲しがっていたのは、大緒(おおを)という紐だった。用途としては、鷹を腕や止まり木に繋(つな)ぐためのものだが、伝統にのっとった色や形にしたいという。
製作をお願いしたのは、芸能関係の組紐を手がける江口裕之さん。歌舞伎や能では、実はいろいろなところに紐が使われている。たとえば、歌舞伎の刀には提緒(さげお)と呼ばれる紐が結ばれている。芝居では、これをほどき、襷(たすき)にすることもある。観客が気に留めない部分だが、特注品で一点ずつ手作業で作られている。
大塚さんは、古い大緒を持参し見せてくれた。それを江口さんが職人の目で厳しく観察する。太さや色、組み方、どれくらいの柔らかさが望ましいのかなど。いつもと違う注文を、江口さんも楽しんでいるように見えた。
それから一カ月後。立派な大緒が完成し、大塚さんに届けられた。
さて、本来の目的だった羽団扇の復元。現在は、山を越して、もう一息という状況にある。(伝統芸能の道具ラボ主宰・田村民子)
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