Kindle版もあります。
内容(「BOOK」データベースより)
SNSでの誹謗中傷、不謹慎狩り、自粛警察、悪質クレーマー…奴らは何者か?「炎上はマスメディアが生み出す」「SNSは世論を反映しない」「炎上加担者はごく少数」など、データ分析から導き出された意外な真実。
ネットでの「炎上」や誹謗中傷が大きな要因と考えられる人気テレビ番組の出演者の自殺で、あらためて「ネットで他者を攻撃する人」の存在がクローズアップされています。
スマイリーキクチさんのこの本が上梓されたのが2011年3月ですから、ほぼ10年経っているのだけれど、同じような事件が続いているのです。
キクチさんの場合は、事実無根の「殺人犯よばわり」だったのですが、『テラスハウス』に出演していた木村花さんは、リアリティショー、という「事実と演出の境界が不明瞭なドキュメンタリーっぽいバラエティ」での行動についての誹謗中傷だったんですよね。
木村さん自身も、番組上の役割として「憎まれ役」を演じることは受け入れていたはずだったのに、それでも、ネットを中心とする自分を責める声に押しつぶされてしまったのです。
ネットで第三者から批判される、誹謗中傷されることの不安と恐怖は、実際にその立場になってみないと想像するのは難しいのかもしれません。
この新書では、「ネットを炎上させているのは、どんな人たちなのか」について、さまざまなアンケートや統計の結果から類推されています。
炎上に参加して他人を攻撃したいと思う人が、世の中にはいる。ただ怒りを覚えるだけでなく、全く面識のない赤の他人に対して、ネットでわざわざ誹謗中傷を書き込んだり、個人情報を特定したりするのである。
このような炎上は日常的に耳にすることが増え、「特別な現象」ではもはやなくなってきた。Webリスクについて調査・コンサルをしているデジタル・クライシス総合研究所によると、2019年の炎上発生件数は、年間1200件程度であったようだ。1年は365日しかないので、一日当たり3回以上、どこかで誰かが燃えているのが現実といえる。
さらに、炎上はネット普及前のバッシングと異なる点がある。それは、批判が可視化されたうえで拡散されやすいという点である。可視化というのは、批判が書かれたワードとして誰の目にも見える形になることを指している。これまで井戸端会議で終わっていたようなバッシングまで、全ての攻撃がこのSNS時代には「見える化」されるのである。
そして多くのSNSは、情報を気軽に拡散できるように設計されている。それは、簡単に情報を共有できることは、コミュニケーションをより豊かにすると考えられているためである。しかしその結果、炎上事例は瞬く間にネット上を駆け巡ることとなってしまった。
さらに、近年ではマスメディアもネットの情報をチェックしており、積極的に取り上げるようにしている。そして、マスメディアが報道すると、今度はそのソース(情報源)付きでSNSに投稿するものが現れる。このようにメディアとSNSが相乗的に情報を拡散していく様子について、法政大学准教授の藤代裕之氏は、メディアとSNSの共振現象という表現を使っている。
最近のテレビのワイドショーでは、「ネット発」の情報が採りあげられることが確かに多いんですよね。「いま話題の面白い動画」みたいなネタならさておき、「ネットで炎上している芸能人情報」をテレビが採りあげ、そのおかげでSNSをあまりやらない層にまで浸透したり、テレビ取材した内容がさらにSNSで拡散されたりする、という現象が頻発しているのです。
それでいて、テレビの業界人は「ネットの行儀の悪さ、デマを拡散する人々」を批判していて、ネットユーザーたちは「テレビの偏向報道」を叩いているのです。
結局のところ、お互いに(無意識のうちに、というのも含めて)協力して、誰かを燃やしていることが多いのに。
ネットニュースには、テレビ番組で誰それがこう言った、みたいなネタがほぼリアルタイムで採りあげられていますし。あれって、けっこう「PV(ページビュー)がラクに稼げる、優良コンテンツ」みたいです。ネット側にとっても。
政治に限らない、ネット上に批判や誹謗中傷があふれる「ネット炎上」全般についても、そのメカニズムが近年明らかになってきている。
私が以前、慶應義塾大学教授の田中辰雄氏らと研究したところによると、ネットで批判や誹謗中傷を書き込む人は、「ネット上では非難しあっていい」「世の中は根本的に間違っている」「ずるい奴がのさばるのが世の中」などの考えを持っている傾向があることが分かった。
社会に対して否定的で、不寛容で、攻撃的で、まさに極端な考え方を持っている人たちだ。そういった「極端な人たち」が、ひとたびネット炎上が発生すると、我先にとネット上に批判や誹謗中傷を書き込みに行くのである、そして、先ほどの片瀬さん(サイエンスライターの片瀬久美子氏)の例にもあったとおり、中には大量のアカウントを作成して執拗に攻撃するものまで現れる。
ネット炎上がひとたび起こると、ネット上は批判や誹謗中傷であふれかえるように見え、「この人はこんなに叩かれているんだ」と思いがちだ。しかし炎上参加者のこのような極端さを知ると、まるで「極端な人」がネット世論をリードしてしまっているようにも見える。
「インターネット」が生まれ、世の中に広まりはじめた時代には、僕も「ネットであれば、お互いの立場や年齢、国籍・人種などに縛られない、正しいほうが相手を説得できるコミュニケーションができるのではないか」と夢想していたのです。
まあでも、「ネットで悪者認定された人」をバッシングするだけの人たちは「議論」しようとしているわけでもなさそうですよね。
ネットはあまりにも身近になりすぎて、現実の生活でたまったストレスや自分の置かれた環境への苛立ちなどが、他者への攻撃的な言葉になって出てきやすい、そして、それを防ぐための安全装置は「本当にこれを投稿していいですか?」という問いかけひとつ(それさえない場合もある)しかないことがほとんどなのです。
コミュニケーションが直感的で簡単である、というのは、大きなリスクも伴っているのです。
個人的には「真面目に議論しようとしている人」たちは、もうネットという場には期待しなくなっていているようにも感じます。
ひとたび「極端な人」がネットで暴れ出すと、世界中がその人を攻撃しているように見えてしまう。SNSは誹謗中傷であふれ、攻撃されている側からすると、まるで世界中が敵になったように見えていることだろう。
しかし、私が2014年と2016年に実施した先述の実証研究は、ネット炎上の驚くべき実態を示した。何と、炎上1件当たりに参加している人は、ネットユーザーの0.0015%しかいなかったのである。0.0015%という数字はほとんど見たことがないと思うが、これは大体7万人に1人くらいの割合だ。
この結果は、2014年の2万人調査でも、2016年の4万人調査でもほとんど一致していた。大体そのくらいが炎上1件に対して書き込みをする人の割合なのだろう。日本全国のネットユーザー数を考えると、7万人に1人ということは、およそ1000人が炎上1件について言及しているといえる。
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October 12, 2020 at 07:41AM
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