国ごと、地域ごとの感染状況に著しい差のある、新型コロナウイルス。加えて注目されるのが、死亡率(=陽性判明者数に対する死亡者数)にも、場所によって極端な違いがあることだ。このウイルスの、本当の怖さはどのようなものなのか。地域エコノミストの藻谷浩介さんが読み解きます。【毎日新聞経済プレミア】 ◇「Go To キャンペーン」は大丈夫か 新型コロナウイルスの感染は、地球規模で拡大中である。毎日新たに陽性と判明する人の数は、20万人を超えるようになった。ちなみに、その3分の1にあたる6万人以上が米国民だ。日本国内でも、これまでで最悪だった4月中旬と同程度まで再び増加している。 そんなところに、東京都の発着を除くとはいえ、「Go To キャンペーン」など仕掛けて大丈夫なのだろうか。官邸の発想を代弁すれば、最近の陽性判明者には重症化しにくい若い世代が多いこともあり、全国を見渡して考えれば医療機関にはまだまだ余裕がある、ということなのかもしれない。入院者数(ホテルなどへの隔離含む)は、一番多かったゴールデンウイークのころの3分の1で、しかも多くの県ではゼロか数人だ。毎日の新規陽性判明者数も、人口当たりに直せば世界平均よりはるかに低く、主要7カ国(G7)の中では引き続き最低水準なのである。 他方で、この機会に大都市の接待型飲食店を訪れた客が、地方にウイルスを持ち帰る危険は否めない。それに次ぐのが、大都市からの客が地方の接待型飲食店にウイルスを持ち込む危険である。そこに実効的な歯止めをかけないまま観光交流を促進することは、3月中旬に欧米からの帰国者を隔離せずに家に帰してしまったのと同様、後々振り返って政府の自爆行為だったとされるかもしれない。 ただ、6月末から新規陽性判明者数が再び増加しているのに、死亡者数の累計は、1000人直前でとどまっている。4月の場合、中旬に陽性判明者が急増し、下旬には死者数も急増を始めたのだが、現在は、感染者に若者が増えていることもあり、まだそうした連動は見られない。 ◇世界各国の死亡率に著しい差 そこで図では、世界の各国の最新状況を比較してみた。横軸に人口100万人当たりの陽性判明者数の累計を取り、縦軸に同じく人口100万人当たりの死亡者数の累計を取る。国により著しい水準の差があるので、両軸とも対数目盛りとした。一目盛りごとに桁が1、10、100、1000と上がっていく。 ジョンズ・ホプキンズ大学のデータを見ていると、陽性判明者増加から死亡者増加までは1~2週間のタイムラグがあるので、陽性判明者数累計を6月27日時点、死亡者数累計を7月11日時点と、2週間ずらした。後者を前者で割ると死亡率が試算される。図には、死亡率0.1%の水準、1%の水準、5%の水準、10%の水準を、斜めの線で示している。 図のとおり、死亡率には十数%から0.1%未満まで、極端な差がある。だが、陽性判明者数の大小と死亡率の高低には、明確な関係がない。たとえば、陽性判明者数が多い中にも、死亡率の高い国、低い国がある。しかしどの国が世界のどの地域に属するかという区分を加えると、地域ごとにある程度まとまった傾向があることが見えてくる。 日本は図の中央やや左にあるが、目盛りを対数ではなく通常の表示にすれば、左下に張り付くことになる。右上に行くほど、数十倍増しで事態は深刻だ。日本の死亡率は5.4%と試算される(陽性判明者数と死亡者数のカウント時点が、2週間違うことに注意)。ちなみに米国も同じく5.4%で、ドイツが4.7%。世界平均は5.7%だ。 ◇欧州の死亡率は高く、湾岸諸国は低い 図の右上には欧州の旧西側諸国が固まり、そこに米国など南北米州の一部の国が交ざる。英国やスウェーデン、イタリア、フランス、スペインなどでは、先進医療体制を持ちながら、死亡率は10%前後と高い。理由は、医療崩壊というよりも介護崩壊だろう。早い段階に、おそらく低賃金の介護関係労働者を介して介護施設にウイルスが侵入したことが、死者数を急増させた。 それに対しペルシャ湾岸諸国では、感染拡大が深刻な割に死亡率は低い。当特別連載の第6回で書いた通り、外国人建設労働者の寮などでウイルスが蔓延(まんえん)しているが、頑健な若い男性が中心であるためか、亡くなる人は少なめだ。もっと極端なのがシンガポールで、死亡率が0.1%を大きく切っている。本当にそこまで低いのか、さすがに筆者には疑問に思える。 米国、カナダ、ブラジル、メキシコなど、南北米州には感染拡大が急速に進み、かつ死亡率も高めの国が目立つ。これらでは、大都市の貧困層をウイルスが直撃しているものと懸念される。同じ都市貧困問題は、アフリカでも深刻なはずだが、検査体制の問題もあるのだろう、図の右上には出てこない。例外が、アフリカでは相対的に豊かな南アフリカで、かなり右上に上がってきた。他にも、PCR検査(遺伝子検査)が行き渡ればこれくらいの位置にくる国があることだろう。 ◇ポイントを絞った自粛とは 死亡率に立ち返れば、日本の水準は世界平均や米独に近いわけだが、検査率が相対的に低く、未発見の無症状感染者や治癒者も多いはずで、本当はもっと低いのではないか。実態はどの程度なのか。 一つの参考事例は、横浜港に停泊していたクルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号の数字だ。乗客乗員3711人の全員が検査を受け、陽性判明者は20%、発症者は10%。死亡者13人は、陽性判明者の1.8%だった。 同船の重症者の受け入れを全国の病院が渋った当時に比べ、現在では各地に治療のノウハウが蓄積している。また船内で確認されたウイルスと、現在日本の市中にあるものでは遺伝子に変異が生じているが、最近の研究では、新型コロナの変異は毒性の違いを生んでいないという。乗客の多くが高齢者だったことも考えれば、若者も交ざる一般市中での本当の死亡率も、同じく2%を超えないだろう。 とすれば今後の日本では、検査が行き渡るほど死亡率は今の水準から下がる。高齢者の多い一般病棟や介護施設へのウイルス侵入を防ぐことができれば、陽性判明者がさらに増えても、死亡者は以前ほどは増えないという状況が続くのではないか。しかしそこに油断せずに、だが過度に怖がらずに、他人同士が密集した中では話さないなど、ポイントを絞った行動自粛を続けていくことが、当面の間、重要であり続けるだろう。
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July 27, 2020 at 07:45AM
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