安斉かれんと言えば、これまでにリリースしてきたシングルや、ドラマ『M 愛すべき人がいて』で主人公のアユを演じたその役柄から、J-POPという言葉が現れ隆盛を迎えた90年代~00年代前半の熱狂を今に落とし込んだアーティストというイメージが強かった。
しかし、ここに届いたニューシングル“GAL-TRAP”では、これまでとは異なるアプローチをみせる。ロックを軸にしたパワフルなスタイルから、モダンなR&Bやヒップホップにシフト。音数も削いだシンプルで滑らかなトラックや、そこに寄り添うような歌声とメロディは、冒頭の歌詞に出てくる《曖昧》な世界を浮遊しているかのよう。極端な見方をすれば、例えば前シングル“僕らは強くなれる。”で明快な応援歌を歌った姿は、少なくともここにはない。彼女は今どこに存在するのか、この曲で何を伝えたかったのか、その真意を訊いた。
Interview:
安斉かれん
━━安斉さんのことを調べると、小学生の頃にThe Rolling Stones(以下、ストーンズ)のライブを観たことがきっかけでサックスに憧れを抱き、中学に入ってから吹奏楽部に入ってサックスを始めたというエピソードがよく出てきますが、当時の音楽遍歴について詳しく教えていただけますか?
幼い頃から音楽は好きでしたけど、当初は積極的に聴いていたというより、私はすごくお父さんっ子だったので、「父が好き」という感覚のほうが強かったように思います。そんななか、自然と耳に入ってきた音楽にロックが多かったんです。サックスを始めたいと思ったストーンズもそうですし、あとはハノイ・ロックス(Hanoi Rocks)もよく聴いていました。しばらくしてアンディ・マッコイ(Andy McCoy ※ハノイ・ロックスのギタリスト)がやっているグリース・ヘルメット(Grease Helmet)のアルバム『Grease Helmet』を自分で買いに行くくらい、ロックを好きになりましたね。
━━学校にもそういったロックンロールを共有できる友達はいましたか?
いなかったです(泣)
━━子供の頃、共通の趣味について話せる仲間がいないことは寂しくなかったですか?
そういう曲を校内で流したくて仕方なかったので放送委員になって、昼休みにかけまくって満足していました。THE HIGH-LOWSの“なまけ大臣”とか。音はすごくカッコいいのに、歌詞がおもしろいところが好きで。《漫画を読みたい ビールを飲みたい》、《果報寝て待つ大統領》、《ゴロ ゴロ ゴロ》とか、そんな歌詞の曲をあえて学校で流して楽しむみたいな(笑)。
━━強いですね(笑)。サックスを始めたルーツはストーンズということですが、彼らのサックスと言えばボビー・キーズ(Bobby Keys)。ロックンロール/R&Bのサックス奏者ですから、一般的な吹奏楽部で学ぶこととはまた異なります。
ストーンズのサックスと吹奏楽で主に演奏していたクラシックのサックスは、ぜんぜん違いますよね。でも、当時は何がロックンロールで何がジャズで何がクラシックか、そういうジャンルの線引きや奏法の違いなんてよくわかっていないので、とにかくサックスかドラムをやりたいって希望を出しました。エレクトーンを習っていたこともあって、「指が動くならサックスがいいんじゃない?」って勧められたんです。そこからはみんなで演奏するクラシックにもどんどんハマっていきました。
━━部活動での思い出について聞かせてもらえますか?
私がいた吹奏楽部は、50人くらの編成で演奏会を開いたり、コンクールに出場したりしていたんですけど、その中から選抜されたメンバーだけで少人数のアンサンブルコンテストに出たことです。私のほかにそのパートを吹く人がいないから絶対にミスできないんですけど、そういうスリルも好きでした。
━━緊張感を楽しめるタイプなんですね。
緊張しても隠せる程度というか。こうしてインタビューを受けて自分のことを話すときがいちばん緊張するかも(笑)。ただ、ミュージックステーションに出たときは自分でもびっくりするくらい、想像以上に緊張しました。理由はわからないんですが、やっぱり「テレビの生放送」っていう初めての環境だったからかな?
━━歌を歌うようになったきっかけは何だったんですか?
とにかく興味が湧いたら何でもすぐにやってみたい性格なんです。お囃子とかもやってましたし。
━━また当初のロックドラムへの憧れとは全く違う方向に。
お囃子、おもしろいですよ。楽譜が「どん どん」みたいに平仮名とか片仮名で、すごく感覚的。楽器が大好きなんですよ。歌も「声も音だから楽器だろっ」と思って始めました。
━━今はどんな音楽に興味がありますか?
特定のジャンルを掘り下げるというよりは、シチュエーションによって選ぶ音楽も違ってきます。散歩しながらイヤホンで音楽を聴くときはメロディの雰囲気やグルーヴ感が好きなもの、お風呂で歌うときは歌詞に没入できるもの、みたいな。ここまで話したロックだけではなくて、海外のポップス、ヒップホップやR&Bも聴きます。自分で歌うようになって、こうして曲もリリースさせてもらえるようになってからは、あらためて日本の音楽にも注目するようになりました。
━━安斉さんは、渋谷の「RELECT by RUNWAY CHANNEL Lab.」のスタッフだった頃から、そのファッション性も注目されてきましたが、ファッションとの向き合い方についてはどうですか?
ファッションも音楽と同じで、街に出たときも、ネットを見ているときも、「いいな」と思ったものがあったらすぐに採り入れちゃうんです。メイクも大好きで、小学生や中学生の頃から、当時流行っていたギャル雑誌を見て、つけまつ毛を買いに行ったり、カラコンがうまくつけられなくて1時間くらい頑張ったりしていました。すごく直感的にいろいろと手を出しちゃうので、家には服やメイク道具がたくさんあるんですけど、合うもの同士は少ないんですよ(笑)
━━アイテム数を活かせないんですね(笑)。今回のシングル“GAL-TRAP”の「GAL」は、文字通り、ギャル雑誌を読んでいたというご自身含め、「ギャル」と呼ばれる女性のことですか?
正直に言うと、私自身は「ギャルになりたい」と思ったことはないです。どういう人のことを「ギャル」と呼ぶのか、なんとなくはわかりますし、そういうファッションも好きですけど線引きは難しいじゃないですか。例えば黒髪だったら「ギャル」じゃないってわけでもないですし。
━━ギャルと呼ばれることに不快感はありますか?
それはないです。ぜんぜん嫌じゃないです。
━━「ギャル」という言葉は、印象操作的に作られた常識と照らし合わされるなど、良い使い方をされないこともあります。
でも、それって見方を変えれば、自分の好きな物事に素直であるということでもあると思うんです。ようするにギャルって「マインド」。だからここでは、周囲を気にせず個性を大切にすることの象徴というか。そうなると世代的なカルチャーの話ではなくなるので、答えとしてはすごく曖昧かもしれないですけど。
━━そこは歌詞の冒頭で、《ねえ。曖昧なのが、世界のカタチなんだよね?》と綴られていることにも繋がりますよね?
はい。あらゆることが曖昧だと思います。
━━先が見えなくても夢を馬鹿にされても《掴み取るまでは戦い続けよう》と歌われている、7月にリリースしたシングル“僕らは強くなれる。”は、おっしゃったような「マインド」とはリンクしてきますが、かなり聴き手を鼓舞する力のある曲なので、今回の《曖昧》とはある意味相反します。また、《全部ヤメにして願う「夢見ないコト」だけ》など、絶望とも受け取れるフレーズも出てきます。
これまでの曲ははっきりしたメッセージ多かったように思います。それは、10代の頃に書いた歌詞が多かったから。私はその時点での等身大の自分を言葉や音にしたいんです。過去を美化したり、今より背伸びしたりしたくないと思っていることが、変化に表れているんだと思います。
━━それはどんな変化ですか?
もう子供と言われる年齢じゃないし、じゃあ大人なのかとなると、その中間にいるような感覚。きっとそれって、今の21歳という年齢特有のことではなく、これからも抱き続ける曖昧さだと思うんです。
━━そんな状況を悲観しているわけではなないですよね?
結論をはっきりさせて圧倒的に共感されたいとは思わないし、そもそも割り切れる感情って少ないじゃないですか。正解なんてそうそうないし、そこに答えを導き出そうとすることもどうなんだろうって思うんです。世界を見て感じることも、私が好きな物事もうまく言葉にできない。その曖昧さをどちからと言えば楽しんでいます。だから、部屋に帰ってなんとなくこの曲を聴いた人が「それな~」くらいに思ってくれたら、私としては十分です。
━━私はそんな姿勢が感じられるからこそ、圧倒的に共感してしまいました(笑)
ありがとうございます(笑)
━━その鍵は、想像力を掻き立てる美しい言葉だと思うんです。私は 《ブリーチしたみたいな街》というフレーズがすごく好きなんですけど、解釈に幅があって印象に残るので、結果的に聴いた人それぞれのシチュエーションに当てはまるんじゃないかと。言葉をチョイスするにあたってのリファレンスはありますか?
本も読みますけど、影響を受けたと言えるほど活字に強いわけではないですし、強いて言うなら映画かもしれません。
━━もしかしたら映画かな?と思っていました。人の存在そのものや本性に迫るような、例えば、『蛇にピアス」とか。エンディングのスクランブル交差点のシーン、この曲でもばっちりな気がしました。
『蛇にピアス」は大好きで何回も繰り返し観ました。だから、直接的にイメージしたわけではないですが、そう言っていただけるのはすごく嬉しいです。国内の映画だとほかには『ヘルタースケルター』や『チワワちゃん』、『渇き』が好きですね。重い何かが心に残るような作品が好きなのかもしれません。でも、『ボヘミアン・ラプソディー』で思いっきり感動してクイーン(Queen)ばかり聴いてる自分もいますし、やっぱりいろいろ好きですね。
━━ミュージックビデオも、今こうして話を聞いたうえで、人間の“存在”に迫った世界観を表現しているように思うのですが、いかがですか?
そうですね、昼間は仕事モード(大人)の私が、家に帰ると大きなクマちゃんに守られている(子供)。そこに「達観していくんじゃねえぞ」って、ちょっと私自身を俯瞰している目線も入ってきてのラストに向かう、すごくおもしろい内容だと思うので、ぜひ最後まで観ていただきたいです。
安斉かれん – GAL-TRAP
━━サウンド面については、どんなイメージで作っていったのでしょうか。今までの90年代や00年代のJ-POPを思わせるなかでもロック調が軸にあったスタイルから、モダンなポップスやR&B、曲のタイトルにもあるヒップホップ/トラップなどにアプローチしたテイストになっています。
これまでリリースしてきたような、どこかノスタルジックなJ-POPも大好きなんですけど、これまで話したようにいろんなジャンルの音楽が好きなので、その部分を表現していくスタートになる曲を作りたかったんです。とは言え、最初からイメージができていたわけではなく、まったく白紙の状態でスタジオに入って、プロデューサーさん達と話し合って、私が歌って、ということを繰り返してできました。まさに、セッション!な感じで、楽しかったですね。
━━スタジオで話しあったことのなかでも重要なポイントを挙げるとすれば、何ですか?
まず音を詰め込みすぎてガチャガチャした曲にしないこと。ゆったりしたグルーヴとメロディの立った曲にしたことですね。あとは、曖昧さの話になるんですけど、言葉では表現しきれない感情を、音やメロディにしたくて。細かいところだと、リップロールやなんとなく口ずさんでいるようなコーラス、自分を落ち着かせるために爪を触っている音などを、感覚的に入れていきました。
━━そんな曖昧な世界を生きる今の安斉さんの夢は何ですか?
夢……大きな目標は持たないようにしてます。 好きなことを好きだってはっきり言える毎日を過ごせたら、それが一番だと思います。
━━主演されたドラマ『M 愛すべき人がいて』もそうですが、安斉さんが所属されている〈エイベックス〉は、ポップスターを目指すアーティストの登竜門というイメージもあります。そういった意味合いでの目標となると、どうですか?
シンガーとしてフロントに立たせてもらっていることで、一人で歌うこともあるし、バンドの方々と一緒にやらせてもらえることもあるし、”僕らは強くなれる。”のように、吹奏楽部のみなさんの中に入って踊ったりサックスを吹かせてもらったりしたこともそうですし、いろんなことをやらせてもらっていることが、すごく幸せなんです。だから、そんな状況に感謝しながら、これからもいろんなスタイルの音楽に挑戦していきたいです。
Text by TAISHI IWAMI
Photo by ともまつりか
安斉かれん
90年代の音楽業界を描き、Twitter世界トレンドTop3入りした話題のドラマ「M 愛すべき人がいて」にW主演として大抜擢。
実は彼女は世界的にも大きな潮流を生みつつあるリバイバル・サウンドをいち早く取り入れJ-popのニュージェネレーションを謳う歌手。元々、「POSGAL(ポスギャル)」と呼ばれる次世代の一人で90年代を意識した8cmSGで作品をリリースしていた。
それらの楽曲は全て「TRKKEIE TRAX」や「Maltine Records」などの気鋭のトラックメーカーによる Reproduceという新たな手法でも再発表され、世界中のニュージェネJ-popファンや 超大物の海外DJからも大きな反響を得ている。
5th「僕らは強くなれる。」は音楽関連ランキングにチャートインし、自身もGoogleトレンド急上昇ワードで1位を獲得。ファッション・アイコンとして、コスメティックブランドの「M·A·C」の店頭ビジュアルへの連続採用やティーン支持を受ける広告イメージキャラクターを飾るなど、そのルックスにも注目が集まっている。
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September 16, 2020 at 10:00AM
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