コロナ禍の取材自粛のため、これまで筆者が復元に関わった道具を紹介する。今回は、歌舞伎の蓑(みの)。
地味だなと思うかもしれないが、旅姿を表すために欠かせないアイテム。色や形、素材の異なるものが多種あって、役柄ごとに細かく使い分けている。なかでも百姓蓑はランクの高い蓑とされ、「仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)」の主役の一人である勘平がまとう。ところが、いつからか作る人がいなくなり、新調できない状態が続いていた。筆者もずっと気になっていた。
二〇一四年、早春。ふとしたことから藤浪小道具(東京)の近藤真理子さんから相談を受け、作り手探しを手伝うことになった。藤浪は、古くから歌舞伎の小道具を一手に引き受けてきた老舗である。
蓑の素材は植物。「いいワラがないらしい」と言われていたが、本当にワラなのか。まずは素材を突き止める必要があった。それで、生物多様性コンサルタントの北澤哲弥さんに見てもらうことにした。
蓑のふさふさとした部分は細長い葉。だが観察してみると葉脈を取り除かれた不完全な形だった。これでは判断が難しい。北澤さんは、体験博物館「千葉県立房総のむら」に協力してもらうのがいいと提案、すぐに連絡してくれた。
「善は急げ」と、三人で訪問してみると、なんとそこには百姓蓑とうり二つの蓑があった。しかも、作り方まで伝承されていた。北澤さんの的確な判断でいきなり突破口が開いた。
博物館の人に困っている事情を話すと、特別に作り方を教えてくれるという。それで、藤浪小道具の工作課のみなさんが何度も通って技を習得。一五年三月、藤浪製の百姓蓑がめでたく完成した。ちなみに、素材の植物はチガヤだった。
次回は、芸能の道具の職人が、鷹(たか)を助けたお話。 (伝統芸能の道具ラボ主宰・田村民子)
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<お道具箱 万華鏡>歌舞伎の蓑 旅姿の必須アイテム - 東京新聞
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