目がくらむほど強烈な日差しにぐったりしていると、ソフトバンク中村晃が黙々と「仕事」をしていた。ZOZOマリンでのロッテ戦を前にした練習中のことだ。打撃練習を終えた中村晃が、ベンチ内に立てかけていたバットを手にし、芯あたりをウエットティッシュらしき物で丁寧に拭いていた。

野球をしている人なら分かると思うが、木製バットは球が当たった跡がつくなどして汚れていくものだ。新品だとツヤツヤしているが、使っていくと黒ずんでいく。中村晃は丁寧にそれを拭き取っていた。おそらく毎試合前、ルーティンのようにしているのだろう。バットコントロールには定評がある打者だけに、その心がけも結果に結びついているのだろうと、勝手に想像してみたりした。

思い出したことがある。ダイエー担当時代だった94年。当時は4番打者としてチームの柱だったソフトバンク秋山幸二前監督と試合前に雑談していると、おもむろにスパイクを拭き始めた。ベンチ裏の選手サロンで、袋詰めされたお手ふきを1個ずつ取り出しては、自分のスパイクの汚れを拭き取っていた。いろんな話をしながらのことである。まるで息をするかのように、自然な手つきだった。「いつもそうしているんですか」と聞くと「自分が使う道具は自分で管理しないとね。ちゃんと磨きながら、今日もお願いしますってね」。球界のスーパースターは、自分の道具に自ら「命」を吹き込んでいた。

中村晃も同じ思いなのかもしれない。「今日もヒットが出ますように」。「ヒットを打ってくれてありがとう」。プロ野球選手のほとんどは、運動メーカーから支給される道具を使っているから、過度に大事にする必要がないといえばない。要は個々の心がけ。技術が一流であるだけでは一流選手にはなれないのだろう。【ソフトバンク担当・浦田由紀夫】