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セクハラ告発された韓国ソウル市長が自死「なぜ男たちは極端な選択をするのか」 - MSN エンターテイメント

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表 © AERA dot. 提供 北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表

 作家・北原みのり氏の連載「おんなの話はありがたい」。今回は、ソウル市長の死で改めて考えた、#MeTooの意義について。

*  *  *

 朴元淳ソウル市長が、自死した。報道によれば、元秘書へのセクハラ加害の告訴状が警察に届けられた日の翌日だったという。

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 弁護士時代から「慰安婦」問題に深く関わり、女性運動家たちからの信頼も厚い人だった。労働問題に真摯に取り組み、弱い立場におかれた人々を政治で救おうと努めた。韓国の民主主義の未来を描き続けた人のこのような最期には、どうしたって動揺する。朴元淳氏ほどの人も、性差別の壁を乗り越えられなかったのだとしたら、いったい……性暴力問題が正しく理解されるまでに、どれほどの時間が必要なのか。

 

 真実を率先して明かすべき人が、その道を絶つ。セクハラ告発後の自死、という一点だけを取れば、多くの少女を犠牲にしたジェフリー・エプスタインの最期と似たようなものになってしまうことも含めて、やりきれない。死により、事件は「謎が深まった」などとテンプレのように表記され、告発した女性は以前とは違う苦悩に追いやられる。性暴力被害者にとって、責任を取るべき人、謝罪すべき人を失うのは、「終わらせられない」ことを意味する残酷だ。

 いったい何度、このような残酷を、私たちは目の当たりにすればよいのだろう。朴元淳氏に限らず、加害を告発された男性たちの少なからぬ人が、“極端な選択”をとってきた。

 

 2016年に都知事選に出馬した鳥越俊太郎氏は、選挙期間中に週刊文春で女子大学生へのセクハラを報道された。報道によれば鳥越氏は、女子大生に「公表したら自死する」とメールをしてきたという。鳥越氏はこの報道を「事実無根」と否定し、名誉毀損と公職選挙法違反の疑いで刑事告訴したが(のち不起訴処分)、驚いたのは鳥越氏支持の女性団体等が、事実を調査する姿勢も見せず、女性の夫がメディア対応したことをもって「夫が語るのが不自然」「性暴力被害をマスコミが政局に利用している」など、鳥越氏の応援を躊躇しなかったことだ。訴えた声を「選挙妨害」と決めつけ、完全封鎖をする道が選ばれた。

 例えば伊藤詩織さんに訴えられた山口敬之氏は、徹底的に伊藤さんを貶める方法を取った。裁判では伊藤さんが「キャバクラ勤め」をしていたなどと嘲笑するように語り、自らの性差別意識をむき出しにしていたが、民事裁判で敗訴した後は仲間たちと「本当の被害者は笑わない」などと伊藤さんを攻撃し、むしろ社会的地位を奪われた自分こそが被害者であることを強調した。

 死を選ぶか、訴えた声を徹底的に貶めるか。そのような極端な方法でしか、「解決」できないと思い込んでいるのだろうか。声をあげた側が望むのは、事実が認められ、その上で謝罪を受けること。“それだけ”であることがほとんどだ。それはそんなにも難しいことなのだろうか。  

 性暴力は「どちらかがうそをついている問題」と、長い間、捉えられてきた。実際に性暴力裁判では、「立派な経歴を持つ中年男性」と「10代の女の子」「性産業で働いている女性」「性にだらしない女性」、どちらの「証言」を信じますか?という視点で「裁かれる」ことが珍しくなかった。裁判自体が性差別、法律自体が性差別、社会の空気が性差別。だから、性暴力被害者の声が真摯に聞かれることは本当に難しかったのだ。

 

 思想信条に限らず、男性というだけで高いげたを履いている性差別社会で、女性に見える景色と、男性の見えているものは違うのかもしれない。“彼ら”にとっては単なる刺激、恋愛、気軽な情事であっても、こちらからすれば恐怖、屈辱体験であることは少なくない。

 私自身、男性たちがふとした拍子にあらわにする無用な性意識には辟易してきた。「○○新聞の○○ちゃん、今日の女性記者のナンバーワン」などと、女性記者の容姿を楽しげにランキングづけしていたジャーナリストが立派なことをテレビでしゃべっているのを見ると、いまだに動悸がする。性暴力問題に関わる男性研究者(60代)が「毎朝行くカフェで若い女性店員と目があって。恋心は大切」とうれしそうに言うのを聞いて、言葉を失ったことがある。出張に向かう飛行機の中でずっと手を握ってきた……と知人の記者が教えてくれた立派な立場のキャスターが出てくるテレビはすぐに消す。

 どれもきっと男性たちには「楽しい」体験なのだろうが、女性たちが「黙る」ことで守られている男性の「立場」があるのだ。そういうものが、この社会には山ほど!ある。#MeTooはそういう社会のルールを壊したのだ。

 

 世界的な#MeTooの流れは決して、男性と女性を対立させるものではなく、男性が、これまで見えず、聞くこともしなかった女性からの「世界」を共有するためのものだ。だからこそ、たとえ受け入れがたいものであっても、まずはその声を聞く、というところに立ってほしい。ほしかった。

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July 14, 2020 at 02:00PM
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