●アマゾン、ウォルマートで起こったコロナ訴訟 日本でもコロナ第2波の襲来が懸念される中、労災責任や安全配慮義務違反としての民事損害賠償責任など、「職場クラスター」が発生した場合の企業責任についての議論が始まっている。 この点、新型肺炎が3月中旬から大流行した米国では、テック大手を含む企業が「感染対策が不十分」として訴えられる事例が相次いでおり、日本企業の担当者の参考になるだろう。現時点では、職場環境が劣悪なまま放置して感染・死亡させたという、極端なケースが多いように思われる。 たとえば、生鮮配達を行うアマゾン・フレッシュのサンフランシスコ配送センターの従業員であるチヨミ・ブレント氏は6月11日に、「度重なる従業員側からの要請にもかかわらず、アマゾンが配送センター内で消毒や清掃を十分に行っていないため、職場が豚小屋並みの不潔さだ」としてアマゾンを提訴した。 同センターで1時間当たり60箱分の箱詰め作業を行うブレント氏は、「ひんぱんにすれ違う従業員間の間隔も十分とられておらず、交代の際の清掃・消毒も行われないため、危険な労働環境だ」と主張し、改善を求めている。 アマゾンでは5月末までに明るみに出た分だけでも、各地で少なくとも8人の配送センター従業員がコロナウイルスに感染して死亡している。同社はこれらのコロナ死に対して「悲しみ」を表明する一方で、「感染対策は十分だ」との主張を変えていない。 また、新型肺炎に感染した従業員数や死亡した従業員の正確な数も公表しておらず、批判を受けている。一方でアマゾンは、こうした非難に応える形で、「コロナ安全対策に40億ドル(約4274億円)を投入する」と約束している。 加えて、米小売り最大手であるウォルマートでは、イリノイ州のウォルマート店舗で2人の従業員がコロナウイルスに感染して3月下旬に死亡し、遺族から訴訟を4月6日に提起されている。ウォルマート従業員の支援団体である「ユナイテッド・フォー・リスペクト」によれば、6月中旬時点で、店舗や配送センターの少なくとも22人の従業員(イリノイ州でのケースを含む)が感染死しており、800人近くがPCR検査でコロナ陽性となっている。 こうした感染例には、コロラド州ラブランドのウォルマート配送センターで5月から6月にかけてクラスターが発生し、少なくとも27人が陽性となった事例も含まれる。ほかにも、4月には同州オーロラのウォルマート店舗で72歳の女性従業員が新型肺炎で死亡、彼女の63歳の夫もコロナで死亡した。その他、同店では警備会社から派遣された69歳の男性が新型肺炎で亡くなっており、徹底消毒のため店舗が一時閉鎖されている。マサチューセッツ州でも少なくとも2店舗で従業員が死亡し、両店舗が閉鎖された。 アマゾン同様、ウォルマートも「悲しみ」を表明するも、「コロナ対策は十分だ」との主張を行っている。同社に対しても、さらなる訴訟が提起される可能性がある。 テック産業以外にも、ミズーリ州にある食肉大手の米スミスフィールド・フーズの食肉加工センターの従業員が、「マスクなど感染防止の防御具も与えられないまま、高速で流れるベルトコンベヤーの前で、ほかの従業員と十分な身体的間隔をとれない状態での労働を強いられている」として、会社を訴えた。咳(せき)をするために口を覆おうとすると、ラインの流れについて行けないため、そのままライン上で咳をしてしまうような感染危険職場であるという。 事実、4月に入って全米のスミスフィールド・フーズや別の食肉加工大手であるタイソン・フーズの工場で感染者が急増、これらのクラスターとなった施設が一時閉鎖されている。 こうした中、4月28日にはトランプ大統領が食肉工場を閉鎖せずに生産を続行するよう命じる大統領令を発出した。これにより食肉企業は、米疾病予防管理センター(CDC)の感染防止の安全指針に従っている限り、「安全管理を怠った」とする訴訟を免れることになったことは、特に注目される。 ●企業免責の法律案に前向きな姿勢 トランプ大統領は、ビジネスを再開する企業や組織が訴訟から守られることで、安心して再オープンができ、それが米経済の早い回復につながることを期待している。事実、4月以来、大統領や共和党のミッチ・マコーネル上院院内総務は米議会でコロナ乱訴防止法案を成立させることに前向きだ。 米商工会議所の「法改革研究所」のハロルド・キム所長は、「企業・教育機関や宗教団体がCDCの感染防止ガイドラインや州・自治体の指針に従っている限り、訴訟から守られるべきだ」と言明。製造業・外食産業・カジノ産業・病院など、訴訟からの保護を願う各種業界団体も次々と支持を表明している。また、すでに米国で2万人を超える死者を出している高齢者施設も、こうした保護を求めていることは注目される。 ジョージメイソン大学で経済学を教えるタイラー・コーエン教授は、訴訟の免責が企業や組織に対して、感染の事実を来訪者に正直に告知するインセンティブになるとする。 具体的なケースとしては、もし企業や組織が免責されなければ、安全面での怠慢を理由に訴えられることを恐れて、「あなたは当店で、感染者である店員に接触した可能性があります」と顧客に通知することを躊躇(ちゅうちょ)するかもしれない。だが、訴訟の提起がなければ、通知が安心してできるため、クラスター追跡に役立つというのだ。 こうした中、「つなぎ処置」として、顧客や参加者や学生など来訪者に免責同意書に署名を求める企業や学校が増加している。たとえばトランプ大統領の陣営は、オクラホマ州やアリゾナ州での大統領選遊説会場に入場する支持者に対し、「コロナウイルスに感染しても、陣営を訴えない」旨の誓約書にサインをさせている。また、オハイオ州立大学は同校のフットボールチームの選手に対して、「COVID-19に感染しても、大学を訴えない」との同意書へのサインを求めている。 ペンシルバニア大学法学部のトム・ベイカー教授は、「たとえ実際の法的効力がなくても、同意書に署名した人は訴えを起こす可能性が低くなるので、その抑止効果の面からは非常に有効だ」と語っている。
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July 03, 2020 at 04:10AM
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