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『sio』鳥羽周作シェフ「料理人としての原点に」。GIVEの精神でコロナ禍を生き抜く - Foodist Media

『sio』オーナーシェフ・⿃⽻周作さん

新型コロナウイルスの影響で飲食店が苦境に立たされている中、爆速で動き回っているのが『sio』の鳥羽周作シェフである。外出を自粛している人向けに、いち早くレシピの無料公開をしたり、オンラインサロンで料理教室を始めたり、フレンチシェフなのにベトナム風サンドイッチや生姜焼き弁当のテイクアウト販売を行っている。一体、どんな思いが彼を突き動かしているのだろうか。

「僕らは一番シンプルで根本的な状態に立ち返ったのです。飲食店はお客様に何かを提供して始めて利益が生まれます。“お客様を大事にしなかったら自分たちも元気になれない”という発想のもとに全部を考えているのです。今はビジネス的な発想よりも“GIVE”の精神が問われています。危機的状況だからこそ、本質の部分が問われているんです。極端な話、海で10人が溺れているときに、一艘しかないボートに我先に乗ろうとするのか、ギリギリまでみんなが助かる道を選ぶのかといったら、僕は後者のタイプです」

鳥羽シェフは常に相手のことを考え、今求められているものを提供するというスタイルを続けてきた。その延長線上に今がある。4月上旬には「Hey! バインミー」というテイクアウトサービスも始めた。バインミーとはベトナム発祥のサンドイッチで、柔らかいフランスパンにレバーペースト、なます、パクチー、そして肉や魚などの具材を挟んだもの。フレンチのシェフが、なぜバインミーを販売しようと考えたのだろうか?

「とにかくお腹の空いている人に何かを届けたいと思ったんです。多くの人が幸せを感じるのは、今は1万円よりも1,000円のお弁当のはず。1,000円でレストランを体感してもらうことを考えて、バインミーに『sio』のイズムを入れました。旨味、塩味、酸味、甘味、苦味に香辛料などのスパイスを足した、『5+1』の味わいがあの一本に詰まっているんです。『sio』を体現するミニマムな形としてバインミーがあります」

『sio』のテイクアウト商品として販売している「バインミー」

つまりバインミーは『sio』の究極の名刺なのだ。これに加え、日替わり弁当や惣菜のテイクアウトも開始した。フレンチレストランでありながら、から揚げ弁当やしょうが焼き弁当を提供できるというところに、『sio』の懐の深さが感じられる。

「今後、バインミーとお店で使っているおしぼりを配達しようと思っているんです。僕が作った『おうちでsio』というプレイリスト(Apple musicとSpotifyで無料公開中)を家で再生しながらバインミーを食べたら、もうそこは『sio』じゃないですか。そういう価値のつくりかたが求められていると思います」

最近はテイクアウトだけはなく、『sio』や姉妹店の『o/sio』の従業員がデリバリーする「トーバーイーツ」もスタート。エリアは限られるが、お店まで行けない人たちにお弁当を届けて、喜ばれている。

大変なときこそ与えていく

最近は在宅勤務の人が多くなり、自炊する機会が増えている。そんな人たちのために鳥羽シェフがつくり始めたのが「おうちでsio」というレシピの無料公開コンテンツである。同様のコンテンツが次々と登場する中でも、鳥羽シェフの取り組みはトップクラスに早かった。

「多分、レシピの無料公開は僕が一番早く始めたと思います。そういうスピード感が大切です。僕の判断基準は非常にシンプルなので人よりも早く動くことができます。今は在宅勤務や外出の自粛で、自炊の回数が増えている人がほとんど。料理が苦手な人でも負担に感じないよう、専門用語をなるべく使わず、どこにでもある食材や道具を使ってできるレシピを考えました。そうやって同じ目線に立つことが大事です。レシピを公開しても、内容が難しかったり、文章が長かったりするとあまり見られません。僕のレシピは基本的には140文字で、補足が少しあるくらい。それが優しさであり、愛なんです」

「おうちでsio」ではコンビニの惣菜パンを使ったアレンジレシピなども公開されている

鳥羽シェフのアンテナは常に“今、何が求められているのか”というところに張り巡らされている。例えば在宅勤務の父親が、家族のためにナポリタンを作る。一人暮らしの学生が、レンジでチンしたものにひと手間を加える。そんな光景を想像しながらレシピをつくるという。材料も好きにアレンジできる余白を残している。これが無料で公開されているというから驚きだ。

「楽しみの度合いってハードルが低いほうが良いんです。プロに教える料理教室ならお金をいただいてもいいと思いますけど、僕のレシピは誰でもつくれるものなので、お金をいただく必要もありません。最近、始めた『料理楽しい研究所』というサービスも月額1,000円です。お金がある人ばかりではないから、なるべく金銭的なハードルを下げるべきだと考えました。大変なときこそ与えていくという姿勢が大事です。もちろん目の前のキャッシュのこともあるから勇気がいります。これをやりきれるかどうかは日頃のスタンスの問題だと思います」

「料理楽しい研究所」とは鳥羽シェフが4月から始めたコミュニティサービスである。料理に関する相談に答えたり、ライブ中継を行ったりすることで、オンラインで本格的な自炊をサポートする。すでに研究員は400人超えだ。

「今はコンビニの食材を使ったレシピも公開中です。シェフとしては邪道かもしれないけど、“幸せの分母”を考えると、コンビニを利用している人は大勢います。だから“やる”というシンプルな判断基準です。先日はセブンイレブンの『金のカレー』と『金のハンバーグ』をアレンジして、レストランのように美味しくするレシピを発表しました。“自宅でレストランのイズムを体感する”という新しい価値の提供です。これからはシェフが美味しいものをつくる時代から、美味しいものを教える時代になっていくと思います」

鳥羽シェフは「幸せの分母」という言葉をよく使う。自社の利益よりも、大勢を幸せにできるほうを選択した結果が、「おうちでsio」や「Hey! バインミー」「料理楽しい研究所」なのである。

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